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明日のマーチの舞台、大宮公園を訪ねて

こんにちは。やなか信人です。

「社の東側の沼の畔(ほとり)に出た。葦簀(よしず)を立て繞(めぐ)らして、店をしまっている掛茶屋がある。『好(い)い処ですね』と、覚えず純一が云った。『好かろう』と、大村は無邪気に得意らしく云って、腰掛けに掛けた。」(青年 より)

大宮公園はこの2月に生誕150周年を迎えた鴎外の「青年」の舞台として知られています。

鴎外を心から敬愛する一人として、わがさいたま市でも彼を偲ぶ集会をぜひ開催してほしいところでしたが、それはさておき、大宮公園は石田衣良(いら)の小説「明日(あした)のマーチ」の舞台にもなっています。「ブルータワー」以来、私も彼の作品を読み親しみ、心の琴線に触れる作品を多く生み出していると感じている作家です。

行進を題材とした小説といえば、18歳の乙女の卒業行進「夜のピクニック」(恩田陸)が鮮やかに思い返されます。ストーリーはそれとはまったく異なり、山形で派遣切りにあうという現実に直面し、東京に歩いて帰ることになった25歳の陽介が主人公の、4人組の物語です。

足を踏み出すことにより始まった行進は、思いもよらず社会の注目を集めます。そしてそれが、各々の抱える課題と向き合うことになっていきます。決して明るい題材とは言えませんが、そこはさすが石田衣良の真骨頂である軽快なテンポの文章。どんどんと読み進めていくことができます。

さて件の大宮公園は、物語終盤の山場を迎えるあたりで登場します。

一行は中山道を北上、鉄道博物館近くの大成3丁目交差点で左折し、大宮公園に向かいます。

彼らが野宿をした大宮第二公園、第三公園一帯は広々とした緑に包まれ、市民憩いの場になっています。(今日2/29、辺り一帯が雪景色となりました。それぞれの作品と季節が全く違いますがとても美しい景色だったため、その写真を使います。)

社会問題となっている雇用問題は、埼玉が抱える問題でもあります。つい先日も埼玉県は浦和のハローワークを中心とした、県内雇用の底上げのハローワーク特区構想を打ち出しました。さいたま市議会の中でも雇用回復やハローワークの改善、そしてワーキングプアおよび就労支援の施策にとどまらず、出会いの創出に至るまで、折に触れ、様々な場所で意見交換を続けております。

私はこの作品は、今の時代を映し出した、大変に良い作品だと思います。

この書を読み大宮公園を訪れると、よい季節であれば、思わず野宿をしたくなる気持ちになります。

ぜひ足を運び、新鮮な空気を吸い込んで、その時には、さいたま市は文学にゆかりがあるところが、そこかしこにあることを思い起こしていただきたいと思います。

「陽介は考えた。自分たちは今、どんな組織にも属していないし、誰にも守られていない。将来は定かではないし、明日なにをしているかさえわからない。こういうひりひりするような不安が、そのまま自由であることなのかもしれない」(明日のマーチ より)

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