こんにちは、やなか信人です。
さいたま市立漫画会館(大宮公園駅から徒歩5分)で開催中の「手塚治虫とっておきの漫画」展に行ってまいりました。この作品展は手塚先生のデビュー70周年を記念して開催され、さいたまトリエンナーレ2016連携事業にもなっており、先生がこれまで描かれてきた「いろんなもの」を「書いていることを証明する」企画展です。まんが原稿に加え、絵本や一コマ風刺まんが、イラスト画などが展示され、様々な表現手法に取り組まれた足跡を知ることができます。見慣れたストーリーまんがとは違う手法を目にすると、先生のウイングの広さに気付かされます。「コンピュータ・コミュニケーション社会はよき友人社会(1979/1/1朝日新聞)」や「2001年のウサギ小屋(1982/4/22神戸新聞)」などのイラストは時代を先取りしていて、先生が未来への羅針盤のような存在だったことが感じられました。そして「友人社会」は、まるで人類共生の理想像が現れているようです。
先生は生前、雑誌のインタビューで「自分のまわりには他人がいて、他人のまわりには社会があって、社会のまわりには世界がある。そういうふうな関連性を考えていて、精一杯生きていく。そういうつながりを考えなければ生きていけないということですね」と答えています(「コミックトム」1980/5月号)。この考え方は、社会全体の幸福を追求する上で、とても大切なことだと思います。
10月23日には、お嬢様の手塚るみ子さんと鉄腕アトムの声優・清水マリさんの対談が行われ、多くのファンで会場は超満員となりました。「小学校5年生くらいの声でいいよ」と手塚先生から言われ、アトムの声が生まれた清水さんのエピソードや、「面白いものを見せたい」という父の影響で見る目を養い、これからは父のような生き方をしたいと言う、るみ子さんの話で大変に盛り上がりました。私たちがこのような貴重な機会に恵まれるのも、何と言ってもさいたま市に漫画会館があるからです。北沢楽天を縁とし「まんが文化」を守り育ててきた漫画会館も、開館50周年を迎えました。会館を出ると、たまっていた心の疲れがいつのまにか消え、心地よい外の風に吹かれました。
私は手塚先生と接する機会に巡り会うことは叶いませんでしたが、プロダクション担当編集者として単行本を手掛けたこともあり、貴重な直筆原稿を手にした時の感触と感動が蘇りました。会場に飾ってあった「七色いんこ」を、また家で読み返そうと思います。
※同展は11/13まで開催されます。